おかやま住宅工房
中川 大
NAKAGAWA Futoshi
倉敷美観地区の美しい町並みの一角にある倉敷本染手織研究所は、民藝の心と技を学ぶ小さな学舎です。生徒さんたちは、ゆっくりと時間が流れる古民家で、1年間共に暮らし、学びます。それまでの暮らしから離れてここで過ごす毎日は、どんな時間だったのでしょう。卒業を前に、代表して3名の生徒さんに研究所での暮らしを振り返っていただきました。
野田沙織さん(ノンちゃん)
東京都出身。都内の服飾関連企業に勤務。服飾業界の実情に疑問を持ち、また趣味の藍染で手仕事の面白さを知り、インターネットで出会った研究所に入所。古民家での暮らしに憧れる。
青木もえさん(あおさん)
東京都出身。都内で働いていた時、旅行でたまたま訪れた倉敷民藝館で研究所のパンフレットをみつける。いったん東京に帰るが、民藝の理念や暮らし方に共感し、入所を実現した。
天川智子さん(あまがわさん)
群馬県出身。美術系の大学に通っていたころ、研究所を知る。卒業後、約9年間の社会人生活を経て入所。夫と共に来倉し、研究所に通う。卒業後は働きながら織物を続ける予定。
左から順に、天川智子さん、青木もえさん、野田沙織さん
中川
皆さん、この研究所のことはどうやって知って、どういう動機で入所しようと思われたのですか?
野田
私は東京都内の企業で10年以上働いていて、この研究所のことはインターネットで知りました。趣味で藍染めの絞り染めを4、5年やっていたので、その経験から手仕事の面白さも知りました。そのうち自分の手で大事に作ったものを自分で着たいと思うようになって、いろいろ調べているうちに、こちらを見つけたんです。
青木
私も東京で働いていて、9年ぐらい前に旅行でたまたま倉敷民藝館を訪れたんです。その時に、この研究所のパンフレットを目にして、そこに書かれている研究所の理念や生活の様子がとても魅力的に思えました。すぐには決断できませんでしたが、3年ほど前にまた来たいなと思うようになって、入所することに決めました。
天川
私は、地元が群馬県なんですが、群馬県で大学卒業後、9年間勤めていた仕事を辞めて来ました。美術系の大学へ通っていた頃、この研究所のことを知り、入りたいと思っていました。卒業してすぐ入所したかったのですが、見学に来た時、先生に「もう少し社会経験を積んでから、どうしても入りたかったら来てみては。」と言っていただいて、いったん働くことにしました。でも、やっぱり諦めきれなかったですね。ここに入所したいと思ったときに結婚も決まり、主人が一緒に来てくれることになったので、近くに部屋を借りて、そこから通っています。
中川
皆さん、素晴らしい行動力ですねえ。ここでは織物の技術だけではなく、民藝思想という考え方を学ぶわけですが、物の見方とか、変わりましたか?
野田
私は民藝という言葉を聞いたこともなくてここへ来たのですが、自分が好きで作ったり、何気なく使ったりしていたものが民藝と言われるものだったということを初めて知りました。うれしかったですね。ここにつながっていたんだなと思って。それに、服飾関係の仕事だったのですが、商品を大量生産して在庫が残ったら焼却処分するというのを見ていて、それはちょっと違うなと思っていたんです。
天川
私は織物をやってみたかったのですが、民藝思想を感じながらここで生活することに憧れていました。アパートから通っているので研究所に住んではいませんが、毎日この古民家で勉強することができました。もともと古い道具などを扱うお店で働いていたので、なんとなくは知っていた器の扱い方などを改めて知ることになり、勉強になりました。
青木
この学校に入る前も、一つのものを大切に使う生活には近かったのですが、若い頃はやっぱり大量生産品を使って、また次のものを買ってということもしていましたね。ここでいろいろな考え方があることを知って、華やかな感じのものよりも普段の生活の中にあるものを大切にしようと改めて思いました。
中川
皆さん、この平成最後の3月で卒業ですが、1年を振り返ってみて、いかがでしたか?
青木
卒業後は東京に帰る予定ですが、ここでの毎日は楽しくて、1年では足りないぐらいですね。もっともっと勉強したいです。
野田
私も1年では足りないですね。もっと勉強したいです。卒業後どうするかはまだ決めていませんが、この研究所のような古民家に住んで、昔ながらの生活をしてみたいなとは思っているんです。でも、東京だとそれができないです。このあたりで、もしご縁があれば、住んでみたいなと思っています。
天川
この1年で学んだことを振り返ってみると…例えば、織物だと糸を準備して、染めてと、いくつもの工程がありますが、一つのものができあがるまでの大変さを体験してみて、今後、ものを見ていくうえで、作り手のいる向こう側が意識できる気がして、それが良かったと思いました。だからこそ長く使いたいと思えたり、大量生産とは違うものの良さが実感できると思います。卒業後は地元に帰って、働きながら織物を日常的にやっていけたらいいなと思っています。
中川
皆さんの行動力に刺激されました。卒業制作の忙しい時期に、どうもありがとうございました。最後の作品作り、頑張ってください。
【つづきます】