おかやま住宅工房
中川 大
NAKAGAWA Futoshi
中川
今回は備中和紙の丹下さんが、ものづくりでお付き合いのあるこちらの研究所と繋いでくださいました。
石上
丹下さんはおじいさんの時からのお付き合いです。倉敷に工房を構えて「備中和紙」と名づけて作ることにしたのも外村先生のアドバイスですよね。丹下さんのおじいさんは私もお会いしたことがありますが、紙を持って、いつも外村先生の所へ「見てください」って意見を聞きに来られていましたよ。研究熱心でした。
中川
試行錯誤されて、こうしてお孫さんの丹下さんが跡を継がれて、素晴らしいですよね。
石上
継いでくれてよかったなと思います。
中川
作り手同士、作品を見てもらったり、意見を聞いたりするのはよくあることですか?
石上
作り手同士というか、外村先生はやはりちょっと違う存在でした。人を育てましたもの。倉敷ガラスの小谷さんとか、丹下さんのおじいさんとか。先生自身は織物ぐらいしかできないのに、目が利くんじゃないでしょうか。そのかわり、1ミリの違いにもうるさかったです。小谷さんの作品作りに関しても、高さとか幅とか、すごく厳しかったです。
中川
そこは妥協しないんですね。自分の感覚というか。
石上
「ま、いいや」というのがなかったですね。
中川
ところで、丹下さんの工房にお邪魔したときに見せていただいたんですが、フランスからノッティングの作品の注文が来たそうですね。
石上
そうなんですよ。一度向こうからデザインが来まして、作ってお送りしたんです。それで終わりだと思っていたら、また注文が来まして、慌ててみんなで作りました。いろんな柄があってお見せしたいんだけど、一枚も残っていなくて。写真で見ていただこうかしら。フランスだけでなく、ベルギーとかいろいろな所でその作品の展覧会をしているんですよ。もう、びっくりしました。結構複雑な柄です。
中川
どういう経緯でフランスから話があったんですか?
石上
それがわからなくて、突然来ました。フランスへ見本で送った糸全種類を使っています。よくもまあ、これだけ組み合わせたなと思って。全部で8パターンぐらいありました。
中川
「このデザインで織ってほしい」という連絡があったんですか?
石上
ええ、まず自分たちのデザインで織ってくれないかという連絡がありました。女性3名のアーティストで、それぞれデザインの雰囲気が違うんです。織りますよとは言ったんですが、デザインがずっと送られてこなかったんです。どんなデザインが来るかなという興味はあったから、一回ぐらいは引き受けようと思ったんです。それでデザインがポロリ、ポロリと来て、織ってみて、これはちょっと手間がかかるし、みんなもやりたくないって言うし。
デザインに意見を言ったら「作家の言う通りにしてください」って言われちゃった。敷くには今ひとつかなと思ったら、展覧会で吊っていたり、壁に貼っていたりしてて、椅子に敷いているだけじゃないんです。そういう使い方だから、彼女たちにしたら「絵」なんでしょうね。日常生活で使うことを条件にしたんだけど、やっぱり壁に貼ったり、飾ったりしていて。それなりに変ではないんですけど。
デザインに意見を言ったら「作家の言う通りにしてください」って言われちゃった。敷くには今ひとつかなと思ったら、展覧会で吊っていたり、壁に貼っていたりしてて、椅子に敷いているだけじゃないんです。そういう使い方だから、彼女たちにしたら「絵」なんでしょうね。日常生活で使うことを条件にしたんだけど、やっぱり壁に貼ったり、飾ったりしていて。それなりに変ではないんですけど。
中川
絵画として飾るのは許容しようと思われているんですか?
石上
思っていないです。一回のご縁があってまた言ってくださって、一生懸命してくださったので作りました。フランスから注文してきたあの方たち、わざわざここにやって来たというのは、すごく民藝に心酔しているからなんですよ。ただその捉え方が、わたしたちとはものすごく違う。おそらくフランスでも民藝が流行っているのか、ある程度は理解している方たちのようです。
中川
これだけの作品があると、どうしても「販路を広げて」といったビジネスのことを考えてしまうんですが、そういうことは考えていらっしゃらないんですか?
石上
考えていないですね。多くの人たちに買っていただけるようにしたいなとは思いますけど。織ったものを商品にして販売することは教えていなくて、家庭で使いなさいと言っています。
中川
一枚を高い値段で買っていただくよりは、手の届く値段で多くの方に使ってもらうほうがいいですよね。思いを理解してもらうことが大切でしょう。
石上
外国の方も結構ネットショップから買ってくださっているんです。以前、台湾の方が直接訪ねて来て買ってくださったし、シンガポールの方も来られたことがあります。なんであんな暑い国で敷物がいるんだろうと思ったけど、クーラーが利いていて涼しいんですね。だから固い床の上にこれを敷くとちょうどいいんですって。国や地域に関係なく、興味のある人は欲しいのかなと思います。
中川
やっぱり地元のものは広めていきたいですよね。こちらは歴史のある研究所だから、あえて新しいことはあまり取り入れないようにされているのかなと勝手に思っていたんですが、そのあたりは?
石上
あえて新しいことをしなくても、通用するんです。昔からのものがそのまま受け継がれています。65年同じものを作っていて、誰も「こんな古臭いもの」とは言わないですね。
中川
別に迎合しなくても「用の美」というものが自分の中でわかって、見る目を養えていれば、世間に受け入れられるものが自然と作られていくんでしょうね。それが逆に、周りに合わせて受け入れられようとすると、いやらしくなるんでしょう。
石上
そうですね。丈夫で長持ちすれば、みんな愛してくれます。それから飽きないことも大事です。
中川
長持ちは大事です。今の時代、何でも安く買えるから、傷んだら捨てればいいじゃないかという風潮もありますけど。
石上
あまりお金をかけず買い替えていくことが必要な場合もあるんだと思います。
中川
衛生面に気を使うものとか、子育てに必要なものとかは、買い替えていきますね。たびたび買い替えて便利に使うか、一つのものを修繕しながら長く使い続けるか、生活のシーンで違ってくるんでしょう。「生活をする」というのはそういうことだと改めて思いました。今日はいろいろとお話が聞けて、改めて「民藝」について一から勉強したくなりました。
石上
興味を持っていただいて、ありがとうございました。またいつでも近くに来られたら寄ってください。
【終わります】
倉敷ガラスとは
工芸家・小谷眞三氏(1930~)が制作したガラスコップに、倉敷民藝館初代館長の外村吉之介氏がアドバイスをして「倉敷ガラス」と命名。厚みのある素朴な口吹きガラスで、日常使いの器が「用の美」を体現。独特の青色は「小谷ブルー」と言われる。長男の栄次氏も倉敷ガラスの工房を構える。