民藝を訪ねて

日々の暮らしの中であたりまえにある、誰かが作ったであろう器や布や家具。機械で作られたのではなく、人の手で作り出された『民藝』という名のものたちは、ひっそりと、でも何かを言いたげに。柳宗悦らが提唱した『民藝』を現代の時代性にアップデートあるいはチューニングするために、作り手は何を考え、どうアプローチしているのか。そして、新たに生まれる「変化」にどう向き合うのか。

民藝の作り手として活躍する人々の「暮らし」に対する思いや、制作についての考え方にフォーカスし、作り手であると同時に生活者として、ものづくりに携わる姿を追います。

これまでの対話集 第一回 備中和紙 第二回 倉敷本染手織研究所

第一回 備中和紙
備中和紙
丹下 直樹
TANGE Naoki
備中和紙 丹下直樹
対談
プロフィール
おかやま住宅工房 中川大
おかやま住宅工房
中川 大
NAKAGAWA Futoshi

03 「デザインの切り口」に知恵を授かった。

中川
中川 紙を作りながら、その見せ方というか、「そこから先に」と思われたきっかけは何かあったんですか?
丹下
丹下 それはやっぱり2013年にプロダクトデザイナーの角田陽太さんに出会ったことでしょう。
中川
中川 『KAMI』という商品を作った時ですね。
丹下
丹下 そうです。
完成したものはただの紙なんですよ。
だけど、出来上がった『KAMI』は、A4サイズに切り揃えられ、プリンターでもコピー機でも使えて、現代的な切り口だなと思いました。
同じいつもの仕事だけど、切り口、見せ方が違う、というのは、結局デザインの切り口だと。
自分だけで仕事をして、少しでもいいものを作ろうというだけでは足りない、知恵みたいなものを与えてもらったんです。

KAMI Designed by Yota Kakuda

中川
中川 それをきっかけに、作った紙に何かをプラスする方に目が向いて行ったんですね。
丹下
丹下 もらった知恵をもとにして、もっといろんなことができると気づいたんです。
でもそれは作ってみないとわからない。
思いついたらどんどん作るんですけど、思ってない方向に転ぶこともあって、楽しいです。
中川
中川 思わぬ方向に転がって、意外性に驚いたことはありますか?
丹下
丹下 自分で漉いてみて何かにはできそうだけど、何かわからないということで、寝かしているものはあるんです。
ある時、倉敷ガラスの小谷栄次さんの展示会に行った時に見たピッチャーが、いつもと全然違ってたんです。ピッチャーの形はいつもの仕事だったんですけど、透明な部分に白い色がザッと混ぜてあった。
展示会だから面白いのを混ぜてやろうと、作ったんだと思うんですよ。
それが気に入って買って帰り、ぼくが何年も寝かしてる素材が使えると思って、すぐ図面を引きました。
結局それはレターセットになって、「瀬戸内ブランド」に選ばれました。
中川
中川 ガラスの食器からヒントを得てですか?
丹下
丹下 そうそう。 でもガラスのピッチャーを見て、なんでレターセット?って・・・。
はた目にはわからないですよ。
だけど、いい仕事してるなと思ったら、影響してくるんですよね。
中川
中川 寝かしていた紙をふと思い出したんですね。
丹下
丹下 結びついたんですね。
レターセットができたのが2016年ぐらいだったと思う。
2013年に素材はできていたので3年間ぐらい寝かしてたのかな。
何したらいいかわからないけど、何かにできそうだなと。
あれもそうなんですよ。
中川
中川 ビンの中の?
丹下
丹下 そうそう、あれ。
イ草を染める時に両端を縛るんですけど、その両端を切ったらいろんな色のものができて、かわいいんですよ、形が。
何かできそうで、思いつかないんですけど。
中川
中川 で、寝かせてある。
丹下
丹下 そう、見る人が見たら、すぐ何かできると思うんですよ。
来た人に「何かできそうでしょ?」って。
本当は捨てるところで、あれでも十分かわいいんですけど。
何か自分の仕事に影響するかもしれないから、取っておいているんです。
中川
中川 丹下さんは2013年に角田さんと出会い、民藝の外側のデザインという刺激を受けて、世界が広がったと思うのですが、「デザインが得意じゃなかった」と言いながらも、小さい時からそういうことに興味があったんですか?
丹下
丹下 ものが好きなのは好きなんですけど。
小学校の夏休みの工作が、返ってこなかったってことはありました。
先生が「なんか、いいから、もらってもいいか?」って。返してほしいって言えなくて。
中川
中川 椅子とか、プロダクトの洗練されたものがお好きですよね。
以前から興味はあったんですか?
丹下
丹下 19歳ぐらいの時に、音楽教室に行ってたんです。サックスを吹いてました。
そこに建築士の人が来てて「面白い店がある」と教えてもらって、その店で初めて、アルネ・ヤコブセンがデザインした「アリンコチェア」を見たんです。
なに、この変な椅子。なんでこんな形?
しかも白いんですよ。
白い椅子があると知ってびっくりしました。
座ってみたら「なんか、良い」。
そこからですね。
そこで気づく人と、気づかない人がいると思う。
椅子がすごいか、すごくないか。
中川
中川 その頃はまだ紙の仕事はされていなかった?
丹下
丹下 19だったので、まだ正式には始めていないですね。
中川
中川 便せんとか封筒とか、紙の形を変えることをいろいろされてきて、今、家の内装にも丹下さんの紙が使われているんですけど、そういった新しい試みは広がっているんですか?
丹下
丹下 いや~、あまり広がっていないんですよ。
中川
中川 内装に使うのは冒険、チャレンジというか、
あまり考えていなかった?
丹下
丹下 書道用に作った紙が、たまたま建材としても使えるんじゃないかな…という感じですよね。
壁とか襖とかに使ってもいいわけですよ。
建築に関わるものとして、紙を漉いたことはないんです。
実はこういう紙が欲しいんだけど、という声は結構あります。
たいていは先方が遠慮して、よう言わんパターンが多い。こちらから聞かないと。
取引先の老舗旅館に納品したとき、最初は和紙で襖を張ると言ってました。
そのうちもっと使いたくなったのか、部屋がほとんど和紙になっていました。
和紙に囲まれてる。
設計する人が素材を使ってみて、良いからもっと使ってみたいと思ってくれたパターン。
そういうのがあるといいんですけど。
知らない人は、「内装に向いてないんじゃないですか」というんですよ。
逆に「こういう紙が欲しい」と言われれば、新しいものができるかもしれないですね。
中川
中川 個人的に「これに使う紙が欲しい」と言えば、それを一緒に考えていただけるんですか?
丹下
丹下 そうですね。
そうやっていいものになるんであれば、した方がいい。
双方が黙っていていいものができるなら、その方がいいんだけど、なかなかそうはいかないですしね。
中川
中川 こちらからすると、既にあるものを使うという感覚なんです。
こちらから、こうしてくれなんて、恐れ多くて言えないですよ。

丹下さんはそんなことないけど、作家さんによっては「なんでそっちに合わせて作らなきゃいけないんだ」という人もいるかもしれないですからね。
丹下
丹下 一緒に考えるけど、ほとんど僕が「できそうにない」と言うんです。
だいたいそこで話が終わります(笑)。
中川
中川 ほとんどがそこで終わっちゃうけど、本気度が高い人はそこから始まるということでしょうか?
丹下
丹下 どうしても自分が作っているものをよくしたいのであれば食いついてくるだろうし。
「そこまででもないか」とビビってるんだと思う。
言えない人の方が多い。
ぼくは、うちの紙をどうしても使ってほしいとは思っていなくて、他で希望に合う紙を作ってもらっているのなら、そっちの方がいい。
「地元だから」という理由だけでは、うちの紙を使う必然性が足りないと思うんです。
そう感じたら、ぼく、紙を売らんと言うこともあって、相手もびっくりしてると思いますよ。
商売でそんなこと言ったらいけないでしょ。
だいぶ、ぼく嫌われてる(笑)。
【つづきます】

KAMI
備中和紙とプロダクトデザイナー・角田陽太氏による岡山県産の三椏を原料としたA4紙。
伝統的な和紙と「個人がプリンターで紙に印刷する」という現代文明が出会った、洗練された民藝品である。
紙のサイズやパッケージの美しさばかりでなく「手仕事の確かさ」が評価され、2013年日本民藝館展の奨励賞を受賞した。

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